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定常スパイク時系列の実現

本章では定常スパイク時系列を計算機上で実現するための数値計算法を紹介する.スパイク時系列の実現するためには,特定の分布に従う確率変数を生成する必要がある.このとき様々な確率分布を一様分布に標準化して考えるのが基本になる.同様にリニューアル過程の瞬間スパイク生成率を規格化し,ポアソン過程に標準化して考えることもできる.この考え方は,次節以降で非定常のスパイク時系列を実現する際に用いられる時間伸縮理論の基礎になる.

分布の規格化と逆関数法

指数分布・ガンマ分布・ワイブル分布・逆ガウス分布等のスパイク密度分布に従う確率変数を生成したい.特定の分布に従う確率変数を生成する方法に逆関数法がある.逆関数法を理解するために次のような2つの確率変数の確率密度分布の関係を考えよう.確率密度分布 $ f_{X}\left( x\right) $ に従う確率変数(乱数)$ X$ $ X$ $ Y=g\left( X\right)$ なる関係がある変数$ Y$ を考える. $ X$ が確率変数だから$ Y$ も確率変数である. このとき確率変数$ Y$ の確率密度分布 $ f_{Y}\left(
y\right) $ $ f_{X}\left( x\right) ,g\left( x\right) $ を用いてどのように表現されるだろうか.確率密度の保存則 $ f_{Y}\left( y\right) \left\vert dy\right\vert =f_{X}\left(
x\right) \left\vert dx\right\vert $ から$ Y$ の確率密度分布 $ f_{Y}\left(
y\right) $

$\displaystyle f_{Y}\left( y\right) =f_{X}\left( x\right) \left\vert \frac{dx}{d...
...=f_{X}\left( x\right) \left\vert g^{\prime}\left( x\right)
\right\vert ^{-1}
$

で与えられる.この変数変換に伴う密度分布の変換式は一般に成り立つ. そこで特に$ y$ $ x$ の関係として

$\displaystyle y=g\left( x\right) =\int_{-\infty}^{x}f_{X}\left( u\right) du
$

を考えてみよう.ここで $ f_{X}\left( x\right) $ $ X$ 自身の密度分布であるから, $ g\left( x\right) $ として$ X$ の分布関数 $ F_{X}\left( x\right) $ を選んだことになる. 従って $ Y\in\left[ 0,1\right] $ であることは明らか.このとき$ Y$ の密度分布は

$\displaystyle f_{Y}\left( y\right) =f_{X}\left( x\right) \left\vert g^{\prime}\...
...1}=f_{X}\left( x\right) \left\vert f_{X}\left(
x\right) \right\vert ^{-1}=1.
$

つまり確率変数$ Y$ $ \left[0,1\right]$ の区間内に一様分布する一様乱数である.式のように変数変換をすると密度が小さくなるところでは変換の傾きが小さくなり$ y$ 軸上に凝縮する効果が働く.逆に密度が大きくなるところで傾きが大きくなるから$ y$ 軸上で疎になるような効果が働く.このように密度を相殺するように写像される.結果として確率変数$ Y$ $ \left[0,1\right]$ の区間に一様に分布することになる.

そこで逆に$ \xi$ $ \left[0,1\right]$ の区間の一様乱数として

$\displaystyle \xi=\int_{-\infty}^{\eta}f_{X}\left( x\right) dx
$

を満たす$ \eta$ を求めると,$ \eta$ は密度分布 $ f_{X}\left(
\eta\right) $ に従う. $ F_{X}\left( \eta\right)
=\int_{-\infty}^{\eta}f_{X}\left( x\right) dx$ と書けば, $ \eta=F^{-1}\left( \xi\right) $ である. このようにして一様乱数$ \xi$ から逆関数 $ F_{X}^{-1}\left( \xi\right) $ を用いて,密度分布 $ f_{X}\left( \eta\right) =F_{X}^{\prime
}\left( \eta\right) $ に従う乱数$ \eta$ を作成する方法を逆関数法という.

指数分布

指数分布の場合は逆関数が解析的に求められる.平均$ 1/\lambda$ の指数分布を考え

$\displaystyle \xi=\int_{0}^{\eta}\lambda e^{-\lambda x}dx=\left[ -e^{-\lambda x}\right]
_{0}^{\eta}=1-e^{-\lambda\eta}
$

$ \eta$ に関して解いて

$\displaystyle \eta=-\lambda^{-1}\log\xi.$ (1.26)

ただし$ 1-\xi$ $ \xi$ で置き換えた.一様乱数$ \xi$ を生成し,上式の変換を行えば平均$ 1/\lambda$ の指数分布に従う確率変数を生成できる.


ワイブル分布

ワイブル分布の分布関数から

$\displaystyle \xi=F\left( \eta;\lambda,\kappa\right) =1-\exp\left[ -\left\{
\Gamma\left( 1+1/\kappa\right) \lambda\eta\right\} ^{\kappa}\right] .
$

$ t$ に関して解いて

$\displaystyle \eta=-\frac{\left[ -\log\xi\right] ^{1/\kappa}}{\Gamma\left( 1+1/\kappa
 \right) \lambda}.$ (1.27)

これより一様乱数$ \xi$ を生成し,上式の変換を行えばワイブル分布に従う確率変数を生成できる.$ -\log\xi$ が平均$ 1$ の指数分布に従うことに注意.

その他の分布

指数分布,Weibull分布,Pareto分布等は逆関数を容易に求められる.逆関数を解析的に求めることができないときにも,数値計算により所望の分布に従う確率変数を生成することができる.一様乱数$ \xi$ を生成し,数値積分により $ \xi=F\left( \eta\right) =\int_{-\infty}^{\eta
}f\left( x\right) dx$ を満たす$ \eta$ を求めればよい.ガンマ分布・逆ガウス分布に従う確率変数はこの方法で得ることができる.

ハザード関数を用いたスパイク生成

ハザード関数からスパイクを生成する場合,分布関数とハザード関数の関係式に注目する.

$\displaystyle F\left( t\right) =1-\exp\left\{ -\int_{0}^{t}r\left( u\right) du\right\}
$

を変形して

$\displaystyle \int_{0}^{t}r\left( u\right) du=-\log\left[ 1-F\left( t\right) \right] .$ (1.28)

さて,$ \eta$ をスパイク密度関数 $ f\left( t\right) $ (分布関数 $ F\left( t\right) $ )に従う確率変数とすると, $ F\left(\eta\right) $ は一様乱数になり, $ -\log\left[ 1-F\left( \eta\right) \right] $ は指数乱数になる.そこで,指数分布に従う乱数 $ \zeta\left( =-\log\xi\right) $ を生成し

$\displaystyle \zeta=\int_{0}^{\eta}r\left( u\right) du
$

を満たす$ \eta$ を求めれば,$ \eta$ はスパイク密度関数 $ f\left( t\right) $ に従う確率変数になる.この手法は次節以降で非定常のスパイク時系列を実現する際に用いられる時間伸縮理論の基礎になる.

スパイク時系列の作成

リニューアル過程ではスパイク間隔 $ \left\{T_{1},T_{2},\ldots,T_{n}\right\} $ を独立に生成してよい.$ i$ 番目のスパイク時刻を $ t_{i}=T_{1}+T_{2}+,\ldots,+T_{i}$ として,スパイク時系列 $ \left\{ t_{1},t_{2},\ldots,t_{n}\right\} $ が得られる.

ただし初期スパイクのスパイク密度分布は平衡分布

$\displaystyle f_{1}\left( t\right) =\lambda\left[ 1-F\left( t\right) \right]$ (1.29)

で与える.ここで $ 1/\lambda=\int xf\left( x\right) dx$ .初期スパイクのみを平衡分布から生成した過程を平衡リニューアル過程と呼ぶ.


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© 2007 - 2015 H. Shimazaki, Ph.D.